ヴィンテージスウェットの見分け方:古着屋に行く前に知りたいディティール辞書

ヴィンテージスウェットは、古着のなかでも定番のアイテムのひとつです。
ただ「古いグレーのスウェット」として眺めるだけでは、本当におもしろい部分──生地の重み、ネックの切り替え、袖の付け方、リブ、タグ、補強、ステッチ、フード、色、プリント──に気づきにくいことがあります。
このページは、ヴィンテージスウェットを理解するための総論・辞書です。
- スウェットシャツの成り立ち
- 裏毛(フリース)生地とボディ構造
- 生地スペック(糸・ウェイト・編み組織)
- ガゼット/スリーブ/リブ/タグ/補強/ステッチの代表的な型
- 霜降り・ごま塩・ナス紺といった色の呼び名
- 水性プリント/ラバープリントなどの基本的な技法と、色数・ライセンス表記の見方
といった「古着屋で現物を前にしたときに役立つ最低限の知識」を、ひととおり整理します。
ここで扱いきれない仕様の分岐や、ブランド別の個別事例は、BODY STUDY/PRINT STUDY の個別記事に譲ります。
1. ヴィンテージスウェットとは?

スウェットシャツは、裏側がパイル状、または起毛した「裏毛(フリース)生地」を用いた、クルーネック中心のプルオーバートップスを指します。
もともとはアスリートや労働者のための実用的なワークウェアとして発展しました。
一般に、1920年代後半〜1930年代頃、ウール製のフットボールジャージに代わるコットン製の練習用シャツとして、現在につながるクルーネックスウェットが登場したと言われています。

その後、40〜50年代には大学や軍のトレーニング用ウェアとして普及し、60〜70年代にはカレッジスウェットやチームウェアが広がり、80〜90年代にはストリート/ポップカルチャーのアイコンとして定着していきました。
2. スウェットシャツの基本構造
ヴィンテージスウェットを見るときは、まず「生地」と「ボディの組み立て」から押さえると全体像がつかみやすくなります。
スウェットは同じグレーに見えても、編みと縫いの違いによって、着心地や経年の表情が大きく変わります。
2-1. 裏毛(フリース)生地
スウェット生地の基本は「裏毛(うらけ)」です。
-
裏側:ループ状のパイル(または起毛させたフリース)

-
表側:Tシャツに近い見た目(天竺に近い表情)

表糸・中糸・裏糸の3本の糸を使い、裏側のループが空気を含むことで、汗を吸いながら保温性も確保できる構造になっています。
裏面をループのまま残すタイプと、起毛によって柔らかい表情にするタイプがあります。
- 古い年代:コットン100%の肉厚な裏毛が中心
- 60〜70年代以降:ポリエステル混を含め、ヘビー〜ライトまで多様化
裏毛面を表使いした仕様、あるいは裏返して着用する提案が見られることもあります。

裏毛の肉厚さ・起毛の具合・目の詰まり方は、年代や用途を推測する手がかりになります。
同時に、着込んだときの毛羽立ち方や、落ち感(沈み方)にも影響します。
コラム:古着屋で聞く「ザクザク」とは
古着店の現場では、スウェットに対して「ザクザク」という言い方が用いられることがあります。
これは正式な生地名というより、触ったときに硬さ・凹凸・粗さを感じる生地を指す俗称(店頭用語)です。
よくあるのは、表面や裏面に細かな凹凸が出て、起毛した裏毛とは異なる「ざらっとした手触り」を持つタイプです。
(人によっては、鹿の子調・ピケ調の表情を含めてまとめてそう呼ぶこともあります)
見分けの目安
- 触ると「ふかふか」よりも「硬さ/コシ」を感じる
- 目が立っていて凹凸が見えやすい
- 同じグレーでも、表情がやや荒く見える
2-2. ボディの組み立て
身頃(ボディ)の作り方も、年代とともに変化してきました。
-
丸胴(チューブボディ)
筒状に編んだ生地をそのまま身頃に使い、脇に縫い目がないタイプ。
30〜60年代のスウェットによく見られます。 -
脇ハギ
前身頃と後身頃を別パーツにし、脇で縫い合わせるタイプ。
生産効率がよく、70年代以降の量産品で一般的な構造です。 -
サイドパネル(リブパネル)
身頃の両脇にリブや別生地のパネルを挟んだタイプ。
横方向の伸びやフィット感を高めるための仕様で、スポーツウェアや縮み対策のモデルに多く見られます。 -
リバースウィーブ型
生地の目を通常とは逆向き(横方向)に用い、縦縮みを抑える構造。
身頃を横地に使い、脇に縦向きのリブパネルを挟むことで、洗濯による縦方向の縮みを軽減しつつ、動きやすさも確保します。
3. 生地スペック:糸・ウェイト・編みの違い
同じ裏毛スウェットでも、糸の質・太さ・編み方によってふるまいが変わります。
ここでは、古着店で現物を見たときに手がかりになりやすい部分に絞って整理します。
3-1. 糸の種類(リングスパン/オープンエンド)
スウェットの表側に使われる糸は、大きく次の2系統に整理できます。
-
リングスパン糸
糸をリングの中で撚りながら引き伸ばして作る方式。
繊維が比較的そろいやすく、しなやかで強度のある糸になります。
古い年代のコットン100%裏毛では、この方式の「素直な重さ」が魅力になることがあります。 -
オープンエンド糸(空紡糸)
空気の流れを利用して繊維を撚り合わせる方式。
表面にドライなザラつきが出やすく、ボリューム感が出る傾向があります。
60〜70年代以降の量産スウェットや、現行のヘビーウェイトボディでも広く用いられます。
表面の見え方としては、リングスパンは比較的なめらかで均一、オープンエンドはやや粉っぽいムラ感が出ることが多い、という傾向があります(個体差はあります)。
3-2. カード/コーマと表情
糸の前処理にも段階があります。
-
カード糸
綿花をカード(櫛がけ)した段階の糸。
ムラやネップも含まれ、ヴィンテージらしい表情に結びつくことがあります。 -
コーマ糸
短い繊維をさらに取り除き、長い繊維をそろえた糸。
毛羽が少なく、整った目面になりやすい傾向があります。
スウェットの場合、番手(太さ)を厳密に当てるよりも、
「目が詰まっているか/ふんわりしているか」「毛羽の量」の方が現物では判断しやすいポイントです。
3-3. ウェイト(オンス感)の把握
スウェットの重さは「オンス」で語られることが多いですが、
ヴィンテージの現物で正確な数値を当てる必要はありません。
ここでは感覚的に、次の3区分で捉えれば十分です。
-
ライトウェイト(〜9ozクラス)
裏毛が薄く、春〜初秋向き。
60〜70年代のファッション寄りスウェットや企業物に見られることがあります。 -
ミッドウェイト(10〜11ozクラス)
もっとも標準的な厚み。
カレッジスウェットやトレーニングウェアの中核です。 -
ヘビーウェイト(12〜14ozクラス)
しっかりとした重みとコシ。
現行リプロでは「ヘビー」とされる厚みで、ヴィンテージは密度感で差が出ます。
裏毛のループの長さ・密度、手に持ったときの落ち感、
ハンガーに掛けたときの沈み方を観察すると、概ねのウェイト感は把握できます。
4. ネックとガゼット

クルーネックスウェットの襟元に見られる逆三角形のリブパーツが「ガゼット」です。
日本の古着文脈では「汗止め」と呼ばれることもあります。
ガゼットには、主に次のような役割がありました。
- 汗を吸い、表側に出にくくする
- 着脱時にネックが過度に伸びるのを抑える
- ネック周りの補強
現在のスウェットでは、機能的な必然性は薄れ、ヴィンテージらしさを示す意匠として復刻モデルや現行品に再現されることが多くなっています。
4-1. ガゼットの型
ハメコミガゼット

身頃の生地を三角形にくり抜き、その穴にガゼットをはめ込むタイプです。
縫製の手間がかかるため、古い年代の個体に多い傾向があります。
ハリツケガゼット
ガゼット生地を、身頃の上から重ねて縫い付けたタイプです。
ハメコミに比べて工程が簡略化でき、量産期のスウェットに多く見られます。
前V/両V
-
前V:ネックの前側だけにガゼットが入るタイプ

-
両V:前後両方にガゼットが入るタイプ

両Vは製造期間が短いとされ、前Vより希少性の高いディティールとして扱われることが多い傾向があります。
脇ガゼット(脇下ガゼット)

ネックではなく、袖の下・脇の部分に三角形のガゼットを入れた仕様です。
可動域とフィット感を高める目的で、一部のスウェットやヘンリーネックなどに見られます。
4-2. 襟ぐりの種類(一例)
クルーネック

ヘチマネック

ハーフジップネック

Vネック

5. スリーブ(袖付け)
スウェットは運動用として発展した背景があり、腕の可動域を確保するために複数の袖付けパターンが用いられてきました。
袖付けは、肩の落ち方・シルエット・動きやすさに直結する重要なディティールです。
5-1. セットインスリーブ

最も標準的な袖付けです。
- 肩のラインに沿って、袖ぐりがほぼ直角に縫い合わされる
- 比較的きちんとした印象のシルエットになりやすい
- 幅広い年代で見られます
5-2. ラグランスリーブ

袖がネックから脇下まで斜めに続くパターンです。
- 肩に切り替え線がないため、腕の可動域が広い
- 50〜60年代以降のアスレチックウェアやトレーニングウェアで多く採用
切り替えが斜めに入ることで、スポーティな印象になります。
5-3. フリーダムスリーブ
袖山が緩やかなS字カーブを描き、肩から脇下にかけて立体的につながる袖付けです。
- 肩周りの縫い目が比較的少なく、腕を上げやすい立体パターン
- 一部のブランドが採用した希少な仕様として知られています
ラグランとセットインの中間のような独特のラインが特徴です。
6. リブ(袖口・裾)

スウェットの襟・袖口・裾には、伸縮性のあるリブが付けられています。
動いたときにめくれにくくし、冷気の侵入も抑えるためのディティールです。
セーターの太いリブに比べると、スウェットのリブは凹凸が控えめでフラットに近いのが特徴です。
また古着では、リブの状態が「着用可能かどうか」の判断に直結しやすい箇所でもあります。
6-1. 基本のリブ

- 2×1リブや1×1リブなど、ピッチの細かいゴム編み
- 古い年代ほどテンションが強い個体が見られることがあります
- 伸び・破れ・ほつれなど、コンディション差が出やすい
6-2. ハラマキリブ(長リブ)

裾のリブが腹巻きのように長いタイプです。
- 1920〜30年代の初期スウェットに多いとされます
- 防寒性・フィット感を優先した実用的ディティール
- 現存数が少なく、評価されやすい要素です
6-3. ハリヌキリブ

セーターのリブのように、凹凸がしっかり立ったリブです。
- 針を間引いて編むことで凹凸の強い「針抜き」組織になります
- リブ単体の存在感が強く、印象を大きく変えます
- スウェットでは多くはありませんが、復刻品で意図的に用いられることもあります
7. ステッチと縫製:スポーツウェアとしての要求が縫いに現れる
ヴィンテージスウェットの縫製は、用語だけを追うと難しく見えがちです。
しかし、スウェットはスポーツウェアを祖とする“身体着”であり、動く・擦れる・汗をかく・洗うことが前提です。
そのため縫製は装飾というより、要求に対する設計上の回答として理解すると整理しやすくなります。
古着店で使われる呼称を入口としつつ、最終的には縫いの意味(何を実現する縫いか)へ落とし込むことを目的とします。
身体着としての要求を縫製箇所に対応させると、概ね次のように整理できます。
- 脇〜袖下:動く・裂ける → 強度と端の保護(端処理)
- 裾・袖口:伸び縮みする → 折りの押さえと追従性
- 襟ぐり:着脱で伸びる → 伸び対策と安定
- 縫い代:肌に当たる → 段差の管理(当たりの軽減)
- 一点だけ糸が密:負荷点 → 点での補強
この前提があると、用語が多少あいまいでも、観察から意味を確定しやすくなります。
7-0. 重要:古着用語は同じ階層の言葉ではない
二本針/四本針/フラットシーマ/チェーン──古着の会話で頻繁に出てくる呼び方です。
ただし、これらは同じ階層(同じ種類)の言葉ではありません。
- 二本針/三本針/四本針:見え方や針本数に基づく俗称として使われがち(構造を一意に決めません)
- フラットシーマ:縫い代を平らにするという設計(段差管理)の概念
- チェーン:糸の絡み方(縫い目型)の名称で、目的は部位によって決まります
したがって「用語=縫い方」と短絡すると、誤読が起きやすくなります。
本章では、最初からこの前提を明示し、混乱が起きない整理方法で進めます。
7-1. 最初の分岐は「工程の目的」
針本数でもミシン名でもなく、まず 何を実現する縫いか(工程の目的)で整理します。
これが最上流です。
- 接ぐ:パーツ同士をつなぐ(服を成立させる線)
- 守る:布端を保護し、ほつれや裂けの進行を抑える
- 押さえる:折りを押さえ、伸び縮みに追従させる
- 平らにする:縫い代の段差を減らし、肌当たりを良くする
- 補強:一点だけ糸密度を上げ、負荷点を守る
古着の呼称は、最終的にこの5つのどれかに着地させると、意味が安定します。
7-2. 古着の呼称から入り、工程の目的で確定する
本章は縫製そのものの網羅辞書ではなく、現場の言い方を意味へ落とすための整理です。
- 入口:古着の呼称
- 出口:工程の目的(接ぐ/守る/押さえる/平らにする/補強)
この対応を崩さずに記述します。
① 二本針(裾・袖口の二本線)
入口(古着の呼称)
裾・袖口に、表から平行に2本線が見えるため「二本針」と呼ばれることがあります。

出口(工程の目的)
基本的に 押さえる(裾始末/追従) に該当します。
伸び縮みに追従させ、突っ張りや波打ちを抑えるための処理です。
確定のしかた(裏を見る)
裏側にループ状の糸が横に走る構造が確認できれば、「押さえる」で確定しやすくなります。
本章での表記(短縮)
二本針=裾・袖口の押さえ(追従)
② 四本針(脇〜袖下の「強い縫い」)
入口(古着の呼称)
脇〜袖下が「四本針」と呼ばれることがあります(この呼称は幅広く使われるため注意が必要です)。

出口(工程の目的)
この部位は、まず 守る(強度+端の保護) として読みます。
スウェットで負荷がかかりやすい稼働部のため、着用と洗濯の反復を想定した設計になりやすい箇所です。
確定のしかた(裏を見る)
縫い代の布端が糸で包まれている/縫い代が残る、といった「端の保護」が確認できる場合、
「守る(端保護)」として整理できます。
本章での表記(短縮)
四本針(脇)=守る(端保護+強度)
※本文では混同を避けるため、必ず (脇) を付けて表記します。
③ 四本針(裾の平行線)
入口(古着の呼称)
裾の平行線を「四本針」と呼ぶことがあります(②と混同されやすい箇所です)。

出口(工程の目的)
裾の場合は 押さえる(裾始末/追従) に該当します。
縫製側の言い方では、カバーステッチ(カバー)系の文脈で説明されることが多い領域です。
確定のしかた(裏を見る)
表の平行線に加え、裏側のループ状の糸が確認できれば、「押さえる」で確定しやすくなります。
本章での表記(短縮)
四本針(裾)=裾の押さえ(追従/カバー)
④ フラットシーマ(ゴロつきが少ない縫製)
入口(古着の呼称)
「フラットシーマ」「ゴロつかない」といった体感に基づく言い方で語られます。

出口(工程の目的)
これは針本数の話ではなく、平らにする(段差管理) という設計の話です。
縫い代の当たりを抑え、着用時の違和感を軽減することが主目的になります。
確定のしかた(触って確認)
段差が少ないかどうかは、名称当てよりも触って確かめるのが確実です。
表の線だけで判断しない方が安全です。
本章での表記(短縮)
フラットシーマ=平らにする(段差管理)
⑤ チェーン(チェーンステッチ)
入口(古着の呼称)
「チェーンで走っている」と言われることがあります。

出口(工程の目的)
チェーンは「目的」ではなく 縫い目型(ステッチ型) です。
したがって 目的は部位で確定させるのが安全です。
- 裾・袖口に出ている → 押さえる(追従)
- 接ぎ線に出ている → 接ぐ(縫い合わせ)
本章での表記(短縮)
チェーン=縫い目型(目的は部位で確定)
⑥ ロック/かがり(布端が包まれている)
入口(古着の呼称)
裏で布端が糸に包まれている状態を「ロック」「かがり」と呼ぶことがあります。
出口(工程の目的)
これは 守る(端保護) に該当します。
身体着として、汗と洗いを前提にしたとき、端の保護は寿命に直結します。
本章での表記(短縮)
ロック=端を守る(端保護)
⑦ カンヌキ(ここだけ糸密度が高い)
入口(古着の呼称)
一点だけ縫いが非常に密な箇所があり、「カンヌキ」と呼ばれます。
出口(工程の目的)
これは 補強(点で守る) に該当します。
裂けの起点になりやすい箇所を、点で支える考え方です。
本章での表記(短縮)
カンヌキ=点補強
7-2A. 表記の整理
本章では、用語が出たら必ず次の形で着地させます。
- 二本針(裾・袖口)=押さえ(追従)
- 四本針(脇)=守る(端保護+強度)
- 四本針(裾)=押さえ(追従/カバー)
- フラットシーマ=平らにする(段差管理)
- チェーン=縫い目型(目的は部位で確定)
- ロック=端を守る(端保護)
- カンヌキ=点補強
古着の呼称を入口として用いながら、意味が安定した理解になります。
7-2B. 襟ぐり:2本/3本/バインダーは「安定(押さえ)」として読む
襟ぐりは、ヴィンテージスウェットの設計差が出やすい箇所です。
本章では、入口は古着の呼称のまま扱い、出口は必ず工程の目的で確定します。
① 2本/3本/バインダー:まず「押さえる(安定)」として整理する
入口(古着の呼称)
2本ステッチ/3本ステッチ/バインダー(包み)など。

出口(工程の目的)
基本は 押さえる(安定)。その結果として 守る(伸び・ヨレの進行を抑える) にもつながります。
また、内側の処理が丁寧な個体は 平らにする(当たりの軽減) の要素も併せ持ちます。
② 首フライス/リブ編み:リブだけでは判断しない
入口(古着の呼称)
「首フライスが良い」「リブが締まっている」など。

出口(工程の目的)
リブの復元力は 守る(伸びを抑える) に寄与します。
ただし襟ぐりはリブ単体では決まらず、結局は 押さえる(襟付け線の安定) とセットで成立します。
③ 内縫いのように見える処理:名称より「当たり」で判断する
入口(古着の呼称)
「内縫いのように見える」「縫い代が表に出ていない」「当たりが少ない」といった言い方。
出口(工程の目的)
主目的は 平らにする(段差管理)、副次的に 守る(端保護) です。
7-2C. 注意:用語を安全に扱うための最低ルール
-
「四本針」は一種類ではありません
本文では必ず 四本針(脇)/四本針(裾) と書き分け、工程の目的で確定します。 -
「二本/三本」は見え方の入口にすぎません
重要なのは線の本数ではなく、襟ぐりや裾が 波打っていない/ねじれていない/落ちすぎていない ことです。 -
「フラット」は設計(段差管理)の概念です
名称当てより、触って段差が少ないかで判断します。 -
最後は必ず「裏を見る/触る」
表の線だけでは雰囲気で語れてしまいます。
裏の糸の出方と当たり(段差)で確定させます。
7-3. まとめ:縫製は意匠ではなく、身体着の要求の痕跡
ヴィンテージスウェットの縫製は、身体着としての要求が残った痕跡です。
古着の呼称は入口として便利ですが、工程の目的から理解していくと、そのデザイン的な意味が理解できます。
- 入口:古着の呼称
- 出口:工程の目的(接ぐ/守る/押さえる/平らにする/補強)
この往復ができると、ディティールが読みやすくなります。
8. パーカー(フード付きスウェット)
フードの付いたスウェットは一般に「パーカー」と呼ばれます。
ウォームアップ用としてフード付きスウェット(フーディー)が作られたことが起源のひとつとされています。
パーカーを見るときの基本的なチェックポイントは、次の3つです。
- フードの付き方(後付けか、一体型か)
- 生地の構造(シングルか、ダブルフェイスか)
- ポケットの仕様(ハンドウォーマーか、分割ポケットか)
8-1. 後付けフード

クルーネックのスウェットに、後からフードだけを縫い付けたタイプです。
- 古い年代のパーカーに見られる独特のディティール
- フード口や付け根の縫製に当時の技術が表れます
- 手間とコストがかかるため、後年は一体型へ置き換わっていきます
8-2. 一体型フード

身頃と同じパターンの延長でフードを構成するタイプです。
- 現行品も含め、最も一般的な構造
- フードの深さや立ち上がりに個体差が出ます
8-3. ダブルフェイス

生地が二重構造になったタイプです。
- 表:スウェット生地/裏:スウェットまたはサーマル生地、など
- 保温性が高い
- 口元やポケットから覗く裏地がポイントになります
8-4. カンガルーポケット

お腹に付けられた大きなポケット。
物入れというより、手を温めるためのハンドウォーマーとして作られたと言われています。
8-5. セパレートポケット(分割ポケット)
左右のポケットが分割されている仕様です。
ジップパーカーでは定番ですが、プルオーバーでも分割タイプが存在します。
9. ヴィンテージスウェットの色と杢

ヴィンテージスウェットはグレーの印象が強い一方で、
ネイビー、ブラック、杢グレー、バーガンディ、マスタードなど、色のバリエーションも豊富です。
9-1. 先染めと後染め
先染め
- 糸の段階で染色してから生地を編み立てる方法
- 杢グレーや「霜降り」「ごま塩」のような混色感は、先染め糸の組み合わせで表現されます
後染め
- 生地、あるいは製品になったあとで染色する方法
- 裏毛まで同色に染まり、退色の仕方にも特徴が出ます
9-2. 霜降り(しもふり)

白とグレーなど、異なる色の糸が混ざった生地です。
- 明るいグレーのベースに、白い糸がサシのように入る
- まだらで柔らかいトーンになり、「杢」のニュアンスが出ます
9-3. ごま塩

霜降りの一種ですが、白に対して黒(濃いグレー)が強いものを「ごま塩」と呼びます。
- コントラストが強く、プリントの見え方や経年の表情にも個性が出ます
- カーディガンタイプのごま塩など、評価が高い個体もあります
9-4. ナス紺(茄子紺)

「ナス紺」は、本来は茄子の皮のような紫みを帯びた深い紺色を指す伝統色の名前です。
ヴィンテージ文脈では、元は濃紺だった個体が日焼けや洗濯でフェードし、
紫がかった独特のトーンになった状態を指して「ナス紺」と呼ぶことが多い傾向があります。
9-5. その他のカラーバリエーション
クレイジーパターン
左右で色が違う袖、身頃とリブの配色切り替えなど、左右非対称・マルチカラーのスウェットです。
ストック生地を組み合わせたような個体が見られることもあります。
チームスウェット
学校やチームのカラーでカスタムされたスウェット。
軍や学校など、用途ごとの定番色も存在します。
10. プリントスウェットの基礎

ヴィンテージスウェットのプリントは、「インクの種類」「モチーフ」「仕様」で見ると整理しやすくなります。
ここでは、技法の基本のみ簡潔に押さえます。線の設計やレイアウト、経年変化の詳細は PRINT STUDY の領域に譲ります。
10-1. プリント方法
水性プリント(染み込み)
- インクが生地に染み込むため、表面に厚みが出にくい
- 洗い込むとエッジがややぼけ、毛羽と一体化したような表情になる
- 「染み込みプリント」として評価が高いジャンルです
ラバープリント
- 生地の上に乗るようなプリント
- ツヤと厚みがあり、立体感が出る
- 割れ・ひび割れなどの経年変化も味として捉えられます
その他(名称のみ)
- フロッキープリント(起毛したベルベット調)
- 発泡プリント(インクが膨らむ)
- クラックプリント(ひび割れ表情を作る加工)
総論では名称紹介に留め、詳細は個別事例/PRINT STUDYで扱う前提とします。
10-2. 代表的なモチーフ
カレッジプリント
大学名・頭文字(イニシャル)・チームマスコットなど。定番のジャンルです。
ミリタリープリント
軍の訓練着として支給されたスウェット。部隊や用途で雰囲気が変わります。
キャラクタープリント
著名キャラクターからローカルマスコットまで幅広いジャンルです。
チーム/企業ロゴ
ローカルチームのロゴ、企業の広告用スウェットなど。60〜80年代に多く作られました。
10-3. 仕様として見るポイント(色数・サイズ・ライセンス)
プリントを「図案」だけでなく、仕様として見ると判断がしやすくなります。
- 色数(版の数):1色/2色/3色、ベタ+ライン、重ね刷り など
- 位置・サイズ:センターチェスト、裾寄り、袖プリント など
- ライセンス表記:© YEAR + COMPANY の有無(公式性の手がかり)
色数・位置・ライセンス表記は、
「意図して作られたものか/後年の土産物的なものか」を判断する材料になることがあります。
ここから先は PRINT STUDY で、線の太さ・網点・レイアウトまで掘り下げます。
11. 年代ごとのざっくりマップ
ディティールを単体で見るだけでなく、年代ごとの傾向を把握しておくと、古着店での観察が楽になります。
11-1. 1920〜30年代
- スウェットシャツの原型が登場した時期
- ウールからコットンへの移行期
- ハラマキリブ、ハメコミガゼット、丸胴ボディなど初期ならではの仕様が多い
11-2. 1940〜50年代
- チームウェアとしてのスウェットが浸透
- 両Vガゼットやフリーダムスリーブなど、評価されやすいディティールが多い
- 軍用・トレーニング用のスウェットも広がる
11-3. 1960〜70年代
- カレッジ、企業ロゴなどプリントのバリエーションが増える
- リバースウィーブ型やサイドパネル構造が一般化
- 色・配色バリエーションも豊富に
11-4. 1980年代以降
- スウェットがファッションアイテムとして完全に定着
- ブランドロゴ、ポップカルチャー系、ブートレグなどが増える
- オーバーサイズやヘビーウェイト志向も強くなる
12. 古着屋に行く前に押さえておきたいチェックリスト
最後に、古着店でヴィンテージスウェットを前にしたときの観察順序を整理します。
1. ネックまわり
- ガゼットの有無と型(ハメコミ/ハリツケ/前V/両V)
- ネックリブの伸び具合・ダメージ
2. ボディ構造
- 丸胴か、脇ハギか、サイドパネルか
- リバースウィーブ型かどうか(生地目の向きと脇リブで判別)
3. 生地スペック
- 裏毛のループ長・起毛の具合・目の詰まり方
- リングスパン的な均一さか、オープンエンド的なドライ感か
- 手に持ったときの重さ(ライト/ミッド/ヘビー)
4. 袖付け
- セットイン/ラグラン/フリーダム
- 肩線の位置と、着たときの落ち方
5. リブの状態
- 袖口・裾リブの伸び・ほつれ
- ハラマキリブやハリヌキリブなど特徴的仕様の有無
6. タグとラベル
- ブランドタグの種類・フォント・素材
- サイズ表記の形式(38–40/M など)
- ケアラベルやユニオンチケットの有無
7. 補強ディテール
- 脇下ハトメ/ハーフムーン当て布の有無
- エルボーパッチ・ショルダーパッチ
- 裾マチやスリットの有無
8. ステッチ
- 身頃・袖の縫い合わせが端保護系か、段差管理系か
- 裾・袖口・ネックの押さえ(カバー)処理の状態
- 糸の色・太さ・経年(黄ばみ/補修跡)の有無
9. 色と杢
- 霜降りか、ごま塩か、単色か
- ナス紺のようにフェードした色かどうか
- 後染めか、先染めか(裏毛の色やタグ周りの色残りも参考)
10. プリント
- 染み込みか、ラバーか、フロッキーか
- ひび割れや擦れの表情
- モチーフ(カレッジ/ミリタリー/キャラクター/企業ロゴなど)
- 色数・プリント位置・ライセンス表記の有無
このページをひととおり読んだあとで実物を見ると、
同じ一枚でも、観察できる情報量が大きく変わってきます。